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東京地方裁判所 昭和57年(特わ)1783号 判決

裁判所書記官

久保田堅蔵

(被告人の表示)

本店所在地

東京都新宿区新宿三丁目三番一号

虎乃門建設機械株式会社

(右代表者代表取締役大竹芳明)

本籍

東京都千代田区岩本町二丁目四〇番地

住居

同都保谷市新町四丁目一二番三六号

会社役員

大竹芳明

昭和八年三月一二日生

主文

1  被告人虎乃門建設機械株式会社を罰金一、三〇〇万円に、被告人大竹芳明を懲役一〇月にそれぞれ処する。

2  被告人大竹芳明に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人虎乃門建設機械株式会社(以下、「被告会社」という。)は、東京都新宿区新宿三丁目三番一号(昭和五三年五月五日以前は、同都中野区本町三丁目二九番一四号)に本店を置き、建設機械・特殊車輌等及び部品の販売・修理並びにリース業等を目的とする資本金一、〇〇〇万円の株式会社であり、被告人大竹芳明は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人大竹は、右被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上の一部を除外し、架空の仕入及び経費を計上するなどの方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和五三年三月二一日から同五四年三月二〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億六八九万五八〇六円(別紙(一)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同年五月二一日、同都新宿区三栄町二四番地所在の所轄四谷税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が四、一一七万七、九七五円でこれに対する法人税額が一、五一四万一、一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和五七年押第一一七四号の1)を提出し、そのまゝ法定納期限を徒過させもって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額四、一四二万四、一〇〇円と右申告税額との差額二、六二八万三、〇〇〇円(別紙(三)税額計算書参照)を免れ、

第二  昭和五四年三月二一日から同五五年三月二〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が八、六〇七万三、九七五円(別紙(二)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同年五月二〇日、前記四谷税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二、四七三万三、五九一円でこれに対する法人税額が八九六万四、五〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前押号の2)を提出し、そのまゝ法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額三、三四九万二、四〇〇円と右申告税額との差額二、四五二万七、九〇〇円(別紙(三)税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全般につき

一  被告人大竹芳明の当公判廷における供述

一  被告人大竹芳明の検察官に対する供述調書二通

一  寺島克彦の検察官に対する供述調書

一  東京法務局新宿出張所登記官作成の登記簿謄本

判示第一、第二の事実ことに過少申告の事実及び別紙(一)、(二)修正損益計算書の公表金額につき

一  検察事務官作成の捜査報告書

一  奥田孝子作成の上申書

一  押収してある昭和五四年三月期及び同五五年六月期法人税の確定申告書二袋(昭和五七年押第一一七四号の1、2)

判示第一、第二の事実ことに別紙(一)、(二)修正損益計算書中の各当期増減金額欄記載の内容につき

一  検察官神宮寿雄、弁護人弁護士結城義人、被告会社代表者代表取締役大竹芳明、被告人大竹芳明作成の合意書面

一  四谷税務署長作成の証明書(別紙(一)、(二)修正損益計算書の各勘定科目中〈67〉、〈70〉)

一  収税官吏作成の役員賞与損金不算入額調査書二通(右同(一)、(二)の各〈77〉)

(法令の適用)

一、罰条

(一)  被告会社

いずれも昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一六四条一項、一五九条

(二)  被告人大竹

いずれも行為時において右改正前の法人税法一五九条、裁判時において改正後の法人税法一五九条(刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑による。)

二、刑種の選択

被告人大竹につき、いずれも懲役刑選択

三、併合罪の処理

(一)  被告会社

刑法四五条前段、四八条二項

(二)  被告人大竹

刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の重い判示第一の罪の刑に加重)

四、刑の執行猶予

被告人大竹につき、刑法二五条一項

(量刑の理由)

被告会社は、昭和四八年四月被告人大竹が勤務していた株式会社とらの門を退職した際、同会社の重機部門を独立させて設立した会社であり、主として米国製大型貨物自動車(略称ワブコ)等特殊車輌、建設機械及び部品の販売、修理、賃貸等を目的とする会社であるが、本件は、判示のとおり、その代表取締役である被告人大竹が右被告会社の業務に関し二事業年度で合計約五、〇〇〇万円の法人税を脱税したというものであって、ほ脱額は高額であり、ほ脱率もかなり高い。ところで、被告人大竹は、ほ脱の動機について、昭和五〇年に至り日立製作所、小松製作所等の大企業において大型貨物自動車を製造、販売するようになったことから、前記ワブコの販売台数が激減し、そのため被告会社の将来に備えて裏資金を蓄積しようと考え、同年ころから脱税を始めたものであると述べているが、会社の将来に対する危機感があったことは理解しうるとしても、脱税により資産の蓄積を図ることが許されないことは多言を要しないところであり、また、本件簿外資金の相当部分が、被告人大竹らの裏賞与に支給されているなど個人的にも使用されていることからして同被告人が被告会社の将来だけを考えて本件犯行に及んだものとは考えられない。また本件犯行の態様をみても、被告人大竹は、被告会社の売上の状況や売買の内容等を勘案しながら、売上伝票を経理担当者にまわさないで代金の一部を除外したり、決算期に売買代金を繰り延べ計上するよう指示して帳簿操作をさせたり、架空仕入あるいは仕入の水増計上をしたほか、経費についても広範囲にわたり架空及び水増計上するなどあらゆる可能な脱税工作を弄しているものであって、悪質な犯行というべきであり、被告会社において青色申告の承認を受けていたことを併せ考えると、被告人らの責任は重いといわなければならない。

しかしながら、他方において、被告人大竹は本件査察後犯行をすべて認め、当公判廷においても再び犯行を繰り返えさない旨誓約しているなど顕著な改悛の情が認められること、被告会社において本件を含む三事業年度分につき修正申告をしたうえ、本税、延滞税等の国税のほか、地方税についてもすでに納付済であること、本件発覚後ただちに新たな顧問税理士を迎えるなど従前の経理態勢を改善した事実が認められること、被告人らには今まで前科、前歴が全くないこと、被告会社は前記のような経緯もあって、昨今の経営収支は芳しい状況にないことなど有利な事情が認められるので、これらの情状をも総合考慮し、主文のとおり量刑した次第である(求刑被告会社につき罰金一、七〇〇万円、被告人大竹につき懲役一〇月)。

よって、主文のとおり判決する。

出席検察官 神宮寿雄

弁護人 結城義人

(裁判長裁判官 小泉祐康 裁判官 羽渕清司 裁判官 園部秀穗)

別紙(一) 修正損益計算書

虎乃門建設機械株式会社

自 昭和53年3月21日

至 昭和54年3月20日

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

別紙(二) 修正損益計算書

虎乃門建設機械株式会社

自 昭和54年3月21日

至 昭和55年3月20日

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

別紙(三) 税額計算書

虎乃門建設株式会社

〈省略〉

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